N”p徒~♪”*2

↑タイトルは文字化けではありません(笑)。単車、クルマ、工具などいろいろ。・・・・そして、ときどき"Perfume"。過去の記事へのコメントも歓迎致します。

飛燕 邂逅 其の弐

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 [飛燕]の特徴的な外観の一要因である冷却器(ラジエーター)の単体。
冷却水の熱交換だけではなく、
(潤)滑油の熱交換器も仕込まれているようです。
冷却水/油の流入/取り出し口部分の色から
恐らく真鍮製だと思われます。

 

 

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 倒立V型12気筒の片バンクの6気筒(これらは[飛燕]前期搭載の[ハ40]の部品)。
カムはベベルギアによって駆動されていたようです。
それにしてもカム・ジャーナルが少ない。
両脇だけにしか確認出来ません(片側は展示用)。
カム・カバー側に支持する構造があるのでしょうか?

 

 

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 所謂、OHC。
1カムで(1気筒あたり)4弁を駆動します。
点火プラグはツイン仕様(上記、同)。
写真は排気側です。

 多くのクルマ用エンジンと違って、
燃焼室部分でヘッドとシリンダー部分が分割出来ない構造です。
[零戦]の[栄]型エンジンも別体式シリンダーで、
その外周にねじを切り、
ヘッドにねじ込む構造をとっていました。
[ハ40]も同様なのかなぁ?

 写真を見ると、
スタットボルトの通る貫通穴が無いようですが、
クランクケースとの結合は、
どうやっているのでしょう??
いろいろと謎です・・・。

 写真で確認出来る6角穴付きボルト(上部は大きな+ねじ)は、
恐らく水路を空けた跡のメクラ蓋だと思われます。

 

 

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 ボア径150mmの巨大なピストンは恐らくアルミ製。
二枚目の写真で内壁部分にリブらしき形状が確認出来るので、
砂型鋳造で製造されたものと思われます。
頭頂部裏にもリブが刻まれ、
燃焼加重に耐えるための対策が施されています。

 ボア径150mmというのはかなり攻めていて、
その辺りの径を超えるとデトネーション(自己着火)や失火の可能性が増大し、
エンジン破損の危険性が高まります。
大戦末期はオクタン価の高い燃料(当時のオクタン価は90程度)の供給も覚束ず、
よりピストン溶解の危険性が高かったと思われます。
因みに空冷と液冷の違いはありますが、
[零式艦上戦闘機]や、[隼]の
エンジン([栄一一型(海軍)]と、[ハ25(陸軍)]は、ほぼ同一仕様)のボアは、
どちらも130mmでした。
[ハ40]と違って燃料供給はキャブレター式([ミクニ]製)。

 愛機[TL1000S]もボア径98mmしかないのに(単車としては大きい)、
その辺を憂慮してインジェクション(非直噴)を採用したようです
(それでも失火しがち・・・)。
同時期発売の[VTR1000F]は同じボアですが、
圧縮比が「TL1000S]の11.3:1に対して9.4:1と低いので、
なんとかキャブレターでも大丈夫だったようです。
因みに[ハ40/140]の圧縮比の資料は見つけられなかったのですが、
元となった[DB601]は7.2:1(過給器付きなので低い)だったようです。

 連接桿(コネクティングロッド)はI断面で、
破損防止のために美しく磨き上げられています。
ピストンピンの下([ハ40」は倒立なので上?)にも
ピストンリングがあるのが目を惹きますが、
クルマでは見慣れないこの仕様も、
航空機用エンジンのピストンでは一般的なようです。

 

 

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 ピストンが展示されている硝子ケースの向こうには行けません・・・。
でも、どうしてもピストン頭頂部の形状が見たかったので、
手を伸ばして何度か撮影(笑)。
で、何度か目で撮影に成功(喜)!
苦労して撮影した頭頂部の形状は、
凹面状になっていました。
これは過給器搭載エンジンのため、
圧縮時に断熱圧縮により加熱し過ぎを防ぐために
圧縮比を下げる目的からなのでしょうか?

 この頭頂部を良くみると、
凹面加工がピストン外周を同心円ではないように見えます。
これは手加工のため?
それともヴァルブとの干渉の兼ね合い??
光の加減でそう見えるだけ???

 

 

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 コネクティングロッド大端部を受け持つベアリング。
Vバンクで向かい合う2気筒分なので、
幅広の3列ニードルローラーベアリングです。

 クランク・ジャーナルにプレーン・ベアリングではなく、
一般的な所謂コロ軸受けを採用すると、
クランクが組み立て式になると私は思っていました。
実際、[川崎重工]製の[900SF(Z1)/750RS(Z2)]もそうなっています。
しかし、12気筒のクランク軸は長大で重量も嵩みます。
その位相を正しく組み、整列を出すのは難易度が高そうです。
そこを一体式(それでも製造は困難)とするために、
[ハ40]では分割式のコロ軸受けを採用しています。
現在でもこの方式のコロ軸受けは存在しますが、
分割合わせ面を”かち割り加工(一体で製造し、
その後、文字通り割って分割して元の形状の再現性を高める加工)”で二分割とし、
真円度と元位置の再現性を高めているようです。
当時はその技術は望むべくもなく、
分割部分にセレーションを切って一体化させています。

 私は、このコロ軸受けを見て感動を覚えました。
だって、これ、77年前のエンジン内部の部品なんですよっ!
この製造/加工技術は美しいです。
保持器の佇まいなぞ神々しいささえを感じさせます。

 ・・・しかし、当時、破損も多かったような記述を見掛けます。
ベアリング自体の精度もそうですが、
クランク軸の精度が低ければ”すりこぎ運動”が起こり、
過度の負担が掛かることは容易に想像することが出来ます。

 

 

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 過給器の単体。
戦中の日本は、この機構の安定製造の獲得に苦労したために、
高高度での空戦に苦慮しました。

 

 

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 吸気弁も磨き上げられています。
少し前に製造された[栄]の排気弁には、
内部にナトリウム封入式でしたが、
[ハ40]はどうだったのか不明。

 点火プラグは4極セミ沿面プラグでした。

 

 

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 主脚のタイヤ。
ホイール・カヴァーは恐らくアルミ製。
何故か、それを留める甲丸(-摺り割り)ねじの頭の大きさが不均等。
空気吸入弁にもカヴァーが付く凝った造りです。

 

 

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 サイド・トレッドによぉ~く目を凝らすと、
写真のようにキーストーン(要石)の印を見つけることが出来ました。
[ブリヂストン]製ですね。


 つづく・・・・。