N”p徒~♪”*2

↑タイトルは文字化けではありません(笑)。単車、クルマ、工具などいろいろ。・・・・そして、ときどき"Perfume"。過去の記事へのコメントも歓迎致します。

飛燕 邂逅 其の壱

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 [三式戦闘機二型 飛燕(川崎航空機/キ61-Ⅱ改 )機体番号6117]

 はじめて実機を目の当たりにした瞬間、
「うわっ・・・・。」と、思わず声を発してしまいました。

 

 

 

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 液(水)冷エンジンを採用しているので、
エンジン冷却のためのエンジン前部の空気取り入れ孔が必要が無く、
スピナー(プロペラ中央部の覆い)から機体前部への繋がりが滑らかで、
とても美しい機体です。
反面、唐突に突き出た機体下部の熱交換器(ラジエター)が目を引きます。

 実は、私、中学生のころ(ヒコーキがいちばんスキだった時分)に
[ハセガワ]製の1/72の同機のプラモデルを作ったことがあります。
そのときから大戦機の多くが採用していた空冷エンジンを載せた機体とは違った、
機首部分に段差の無い流麗な機体がとても印象的に感じました。
それが、[飛燕]のキットを手に取った切っ掛けだったように思われます。

 実機を見て、ちょっと「あれ?」っと思ったこともあります。
むかぁ~しむかしの私のなかの印象では、
もっと華奢な感じの造形(特に機体後部)だと思っていたのですが、
実機は私の印象よりも力強いものに感じられました。
プラモデルは各社でプロポーションが違うものですが、
その印象の違いがそのためなのか、
長い年月を経て私の記憶のなかの機体が変容したためなのかは不明。

 

 

 

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 どこから見ても美しい機体です。
あえての無塗装の機体がそれを際立たせています。

 中学生のころの私は、
完成したプラモデルを実機を見るであろう目線の高さ(身長の1/72の高さ)から
舐めるように超至近距離から機体各部全周眺め倒し、
実機に想いを馳せるかなりイッちゃったコドモでした・・・(苦笑)。
さぞ、その様を傍から見たらば怖かったンぢゃないかと思います(大笑)。
[飛燕]の周りをぐるぐる廻りながら、
そんな昔のことを思い出しました・・・・(懐)。

 

 

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 多くの大戦機の翼端灯は、
文字通り翼端の一部に面一に取り付けられているものが多いのですが、
この機は翼端下部に位置しています。
当時、製造が困難だった念願の過給器を搭載した同機には、
高高度での活躍を期待。
爆撃機を迎撃するときに、
上方からの被視認性をさげるためなのでしょうか?

 

 

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 ・・・と、思ったのですが、
上部には別体で装備されているようです。
そりゃそうです。
上部からも視認出来なきゃ意味が無いですもんねぇ。
他社ですが、[一式戦闘機 隼]も同様な方式を採用しています。
私は[ハセガワ]の1/72[雷電]の箱絵で、
翼端灯の色が左が”赤”であることを覚えました(笑)。
なので、[三菱重工業/雷電]の翼端灯はよぉ~く覚えているのですが、
[飛燕]はまったく覚えておりませんでした・・・・(汗)。

 

 

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 敢えての無塗装で仕上げられた機体なので、
外板の修復跡からその苦労が如実に感じられます。

 

 

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 その外板に、日の丸が投影される仕掛けが仕込まれていました。

 

 

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 大戦末期、有機硝子で囲われたコックピットから、
操縦士の方々は何を見ていたのでしょうか・・・?

 

 

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 [川崎航空機 /ハ140]
液冷倒立V型12気筒
排気量 33,912cc
ボア×ストローク 150×160mm
乾燥重量 795kg
出力 1,450馬力(離昇)
公称馬力 1,260馬力/2,650rpm(高度5,500m)

 

 当初、[飛燕]に搭載されたのは、
同盟国だった独の[ダイムラー・ベンツ/DB601]のライセンス生産版の[ハ40]。
後に、その改良版(高圧縮化、高回転化、水メタノール噴射装置付加、
過給圧引き上げ)である写真の[ハ140]が搭載されました。
 
 このエンジンは当時としては革新的な構造を持っていました。
前記のとおり空冷が全盛だった時代に液冷を採用し、
燃料の供給はインジェクションで筒内噴射(直噴)。
そのどれもが現在のクルマでは常識ですが、
クルマに直噴エンジンが採用されたのは、
1996年に[三菱自動車]が生産したものが量産自動車世界初だったので、
そのくらい先進的な設計でありました。

  当時の日本では、
専用の工作機械も用意出来ず、
冶金の技術も高くはなかったので、
このエンジンが設計通りの性能を発揮するように製造するのはとても難しく、
機体だけが出来上がってエンジンの搭載されない
”首無し”機が数多く出来あがったようで、
液冷エンジン搭載を諦め空冷エンジンを積んだ
[五式戦]に転用された機体も多かったようです。

 

 

 

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 前述のとおり[ハ140]は、
『液冷”倒立”V型12気筒』というクルマではまったく見掛けないエンジン方式です。
”倒立”の文字通りクランクが上で、
シリンダーが下に位置しています。
吸気/排気は一般的なクルマのV型エンジンと同じくVバンク内側から吸気して、
外側から排気する方式です。

 

 

f:id:ponta_veloce:20200316173541j:plain  頂いた資料を元に[ハ140]を検証してみました。
写真に線を引いて確認したところ、
実測でVバンク角は62°だと判明しました。

  V型12気筒バンク角を60°(か60°の倍数)に設定し、
バンク間で向かい合う気筒のクランクピンを共用して、
そのそれぞれ6組を120°位相とすることで偶力、慣性力を理論上相殺出来ます。
バランサー無しでこれが出来るのは、
V型の12気筒と、6気筒(直列もバランサー無しが可能)、
それと、水平対向だけです。
戦闘機で部品点数を減らすのは、
重量的にも運用的(整備/修理/信頼性)にも重要です。
では、何故に60°ではなく62°に設計されたのか??
これは資料が無いので推測ですが、
窮屈なVバンク間にインジェクションの機構を収めることが
出来なかったのではないかと思われます。

 '70年代の終わり、
”GPで2万回転廻し、4stで2stに勝つ”との命題から、
[ホンダ]が生み出した[NR500]も、
初期と二型のVバンク角は100度でした。
[NR500]は長円ピストン([ホンダ]では”楕円”と呼んでいるが実際には”長円”)を
採用していますが形式的にはV型4気筒なので、
Vバンク角を90°とすれば一次振動は理論上は0となります。
が、当時の技術ではVバンク間に収まるキャブレターが製造出来ず、
苦肉の策の100°となっていました(三型以降は90°)。
これと同様の問題が[ハ40]と[ハ140]設計時に
問題として持ち上がったのではないかと推測致します。

 あと、もうひとつ考えられるのは、
資料に印刷する過程のズレ/歪み、
若しくは、私の作図に難があっただけなのかも知れません・・・(汗)。

 

*後日追記
 [DB601]の写真にシリンダー中心線(オレンヂ線)を作図する際、
ヘッド側起点をカム中心部としました。
が、OHC4弁なのでロッカーアームを介して弁を駆動しているので、
カムがシリンダー中心線上に無い可能性があります。
なので、実際には60°なのかも・・・・?

 

 そして、もうひとつの疑問、
何故に倒立式なんて奇異な方式を採用しているのか??

 小型レシプロエンジンの航空機が水平対向エンジンを多く採用するのは、
前方視界を確保するため。
ぢゃ、そのための倒立式なのかと思い、
頂いた資料を元にこれも検証してみました(オレンヂとみどりの線は私が作図)。
するってぇ~と、
図のとおり僅かではありますが”A”の方が長いがほぼ同じ。
実際には上には補器類(恐らく点火用コイル)が付き、
下にはインジェクションが出っ張るんですが、
どちらも取り付けられている画像を見ると、
それも同等の出っ張り具合に見えます・・・・。
これでは上下ひっくり返した倒立式にしても
上下方向の高さはあまり変化がありません。
ぢゃ、倒立エンジンは意味が無いのぉ??

 と、思ったらば、
倒立V型は、下部よりも上部のエンジン幅が狭いため、
前方下方視界が向上するという利点があるようです。
普段、私は地上を這い蹲る乗り物にしか乗っていないので、
前方下方視界には考えが及びませんでした・・・(汗)。

 

 

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 [飛燕]はその空いたエンジン上部両脇部分に
機銃([ホ103]12.7mm機関砲)を積んでいます。
倒立V型エンジンは前方下方視界向上という利点が有るとともに、
その空いた空間に機銃搭載場所の確保
という目的が達成出来るという利点もあったのです。

 その他、この方式は、
正立式よりもエンジンの重心が下がり、
それによって推力線(プロペラ軸)が重心より高くなることになります。
するってぇ~と、推力によって(エンジン重心に)頭下げ方向の
ピッチングモーメントが働く設定となります。
一方で、推力が増加すると当然、揚力も増加するので、
頭上げ方向のピッチングモーメントが働くことになります。
そう、前述のちからと逆の方向のちからです。
これによって上げ/下げのピッチングモーメントが打ち消し合い、
機体が安定方向の操縦性となるのです。
う~ん、正に理詰めの設計ですね。
クルマでは聞き馴染みの無いV型倒立エンジンですが、
レシプロ戦闘機では一般的な形式なようです。
私も調べていて勉強になりました。

 

 つづく・・・。